前回まで『FAKE』をとりあげたのにつづき、これもドキュメンタリー。でも様子はだいぶちがう。
シンプルでストレートで明るい。良し悪しはともかく、マイケル・ムーアのこの明るさは他ではなかなか真似できないだろう。
なお内容には触れない。公式はじめ各種サイトをごらんください。
http://sekai-shinryaku.jp
近年やや手詰まり感があったようにも見えるムーア監督。だが今回は、問題解決への糸口を見出そうとするにあたり、他者から学び自己を再発見するという方途を見出したところに、ずいぶん成長の跡が見られる(なんて書くと教師っぽくてじぶんで嫌になるけど)。個人的には、あの『ボウリング・フォー・コロンバイン』とはまた違う意味で、おもしろかった。
なによりムーア映画がいいのは、辛気臭くならないことだ。根底に怒りをかかえた社会批判ドキュメンタリーを、からっとしたユーモアでくるんでエンタテインメントとして仕立てつつ、それでいて媚びるところはまったくなく、同時にそれなりのマーケットをしっかり確保する。その手腕は、やはり大したものである。
それと、こまかいことかもしれないが、既存作品の引用の手管もやっぱりうまいなとおもう。
もちろん問題点はある。たとえば、あえて他国の良い面ばかりをとりあげているし、単純化している部分も少なからずあるだろう(毎度のことだが)。たしかに、この作品だけ見ればヨーロッパ各国は天国のようにさえ見える。でももちろん実際はぜんぜんそうではなく、いろいろと複雑であることは言うまでもない。
本作品も、そんなことは百も承知のうえで、確信犯的にこう描いているのだろう。この作品の役割は、事象の全体像を描きだすことにあるのではないから。だからその種の批判は、間違いではないかもしれないが、必ずしも的を射ているとはいいにくいようにおもう。
個人的にいちばん印象に残っているのは、必ずしもこの映画のハイライト場面というわけではないのだが、カメラ(とその向こうにいるアメリカ人観客)にむかって一所懸命に英語で訴えるチュニジアのラジオ局のおばさんの姿である。