アイボン

新年早々、眼を痛めてしまった。

三が日明けの朝、研究合宿のため自宅を出たときのことだ。いつもの道を歩きはじめたとたん、右眼になにか入った。ゴミかな。何度かまばたきをしてみたが、異物感は消えない。そのまま電車に乗り、目的地の熱海に着いたが、まだ痛い。駅前の商店街に小さな薬局を見つけたので目薬を買った。

会場の旅館は、現在の熱海のおかれている状況をそのまま具現化したようなたたずまいをしていた。そのロビーで目薬を右眼に差してみた。だが、何度差しても異物感は消えない。少し滲みさえする。

先生や友人たちが心配して、眼を洗浄したらいいという。ほとんどぼくの常識の範疇を越えている。「眼を洗浄する」なんて行為がこの世の中にあるのか。ところが、みんなはそんなの普通だという。コンタクトレンズの常用者や花粉症で悩むひとたちは、日常的に眼を洗っているのだそうだ。

友人のひとりがわざわざ「アイボン」なる洗浄薬を買ってきてくれた。液体の薬品を付属のカップに入れて、カップごと右眼にあててパチパチとまばたきをすればいいらしい。さっそく実行してみた。二度やってみると、異物感がだいぶやわらいだ。先生がおっしゃった。異物が入って取れないというよりも、なにかがあたって眼球に小さな傷がついたのだろう、ハードコンタクトをつかっているとそういうことがよくある、数日で治るよ。

その夜は遅くまで議論がつづいた。夜も更けるころには、眼の痛みがだいぶ薄れてきたような気がした。一晩眠って翌朝目が覚めると、案の定目やにが出ていた。

研究会のあと東京へ戻って、打合せをひとつ済ませると、予定どおりフィルムセンターへ向かった。右眼が疲れるようだったら一本目で切りあげて帰ろうとおもっていた。が、観終わってみると、案外だいじょうぶだった。そこでつづけて二本目も観てしまった。