新しく買うディフェンダーの納車が近づいたある日、ぼくはランクルに乗って近所をひとまわりし、帰りに洗車場に立ち寄って、きれいに洗ってやった。帰宅して車内に掃除機をかけ、ぼくが持ち込んでいた装備品をとりはずした。大きな段ボールを用意したにもかかわらず、とりはずした装備品は意外なほど少なかった。
それから、何人もの男のひとがつぎつぎとやってきて、ランクルのあちこちを細かく検分して帰っていった。その間も、ランクルはいつもと変わらず落ち着いて、されるがままにおとなしくしていた。
それからの数日、子どもたちは、ランクルはいついなくなるの? と訊くようになった。なかなか昼間に家族がそろうことが少ないのだが、それでも11月のある木曜日の朝に、みんながランクルの前にそろって記念写真を撮った。
翌日の寒い朝、買取会社のひとがやってきた。キー、車検証、整備簿、マニュアルといった一式を、そのひとに渡した。こいつをどうぞよろしく、とぼくがいうと、相手の男のひとは少し笑って、わかりましたと答えてくれた。それからイグニションをひねると、やはりいつものように、一発で始動した。
しずしずと走りだした。ランクルはぼくの前でいったん停止した。窓から買取会社のひとが右手をあげて挨拶すると、そのままゆっくりと遠ざかっていった。マフラーの排気が白い息をあげた。しばらく乗っていなかったためか、ブレーキを踏むたびにキーキーと鳴いた。
斜め後ろから見るランクルの姿がいちばん好きだった。でも動いているときの後ろ姿を、そういえば初めて見るんだな、いつも運転していたから。そんなことをぼんやりと考えた。
やがて並木道のところで左に折れると、ランクルの姿は見えなくなった。
ランクルがぼくのところに滞在していた期間は約7年。その間の走行距離32500km。新車時からの総走行距離にしたところでまだ95150km。ランクルの寿命からすれば、まだこれから、といったところだろう。この先いろんな風景のなかをたくさん走ってほしい。さらばランクル。ありがとう。
▼ さらばランクル(2/3)へ戻る
▼ さらばランクル(1/3)へ戻る