映画『しあわせのパン』を観た。北海道は洞爺湖畔でパン屋を兼ねたカフェ・マーニを営む大泉洋と原田知世をめぐるお話だ。
いまや一大ジャンルと化した感のある「一緒にごはんをたべて人生肯定系」に分類できる。一般的な感想はそちら方面に集中するだろう。内容やら作品のメッセージやらといったものについては、ほかにおまかせしておく。というのも、ぼくは映画評論家でも映画学者でもなく、メディア論やメディア思想の立場から映画をみるという、かなり特殊なスタンスだから。
感心したのは脚本だ(三島有紀子監督のオリジナル脚本)。これ見よがしのドラマを排しながら、ひじょうに凝った構造を持たせていて、その仕掛けがよく効いている。初の長編だそうだが、力量がなければ、こんな作品は書けないし、撮れない。
様式的な構図やふるまいを意識的かつ効果的につかっているのもいい。ロングショットのつかいかたも効果的。エンディングに矢野顕子の「ひとつだけ」(忌野清志郎との共演バージョン)がかかる。反則である(むろん誉めているのです)。
ただしベタすぎるショットも少なくない。個々のエピソードもやはりベタで、ぼくにはちょっと甘ったるかった。それが逆に一般ウケする要因なのかもしれないのだが。
ロケ地はもちろん製作体制はオール北海道といった布陣である。中心は札幌のテレビ局なのだが、東京のキー局が製作するテレビ局映画とはまったく違う作品であるのがすばらしい。これからの地方局が地域と関係を切り結んでいくとき、その地域を大事にした映画を製作していくのは、ひとつの良いモデルになるかもしれない。そのさい自局のディレクターやすでに名の知れた監督ではなく、若い映画監督にどしどしチャンスを与えてくれるのがよいとおもう。
ところで、作中に木の家具や食器が登場する。どれもシンプルで感じのいいものなのだが、エンドロールで座席からずり落ちた。北海道・島牧村の友人、吉澤俊輔くんの名前がクレジットされていたからだ。かれは、北海道産の木をつかった木工家具作家なのである。