アシナガバチが巣をかけはじめた。困ったことに、二階のデッキの電灯の直下である。たしかにそこは巣をかけるにはうってつけの場所ではある。クリアポリカの屋根がかかっており、雨風をしのぐことができる。花の咲く木や草にも近い。
しかし、そこが雨風をしのげるようになっているのは、洗濯物を干すためという人間側の都合に拠っているのだ。そんなところにハチの巣ができたら大変なことになる。いまは女王蜂1匹だけだが、巣をかけられてしまったなら、ほどなく働きバチがつぎつぎ登場してくるだろう。そうしたら、働きバチたちがデッキ付近を頻繁に往来することになる。人間はデッキにでることすらままならなくなってしまうだろう。
そこで、アシナガバチの女王バチが巣から離れた隙にデッキにでて、巣を除り去ってみた。戻ってきたアシナガバチは、あるはずの巣がなく、おろおろと巣があるはずの場所を行ったり来たりしていた。そのうち、巣がなくなってしまった現実を受け入れたのか、再び同じ場所に巣をつくりはじめた。
写真は、せっせと巣を再建中のアシナガバチの姿である。
再度かけはじめた巣は、半日でかなり復元され、3日もたつうちにかなり立派な大きさになった。いちおう完成したのか、そのあとアシナガバチは巣にへばりつくようにくっつき、あまり動こうとしない。
仕方なく、ホームセンターへ行き、ハチ退治の薬を買ってきた。なんとかマグナムというやつで、10m離れたところから噴射して巣に命中させることができるのだという。
ハチは夕方から明け方まで動きが鈍くなるらしい。黒いものに反応しやすいというので、頭にタオルを巻き、古いシャツをはおった。巣から1mくらいのところまで接近して、マグナムなんとかを発射した。
引き金を引き続ければ45秒発射しつづけることができると、缶には書かれている。だが一瞬で事足りた。
たった一撃でアシナガバチは吹き飛んでしまった。念のためにもう一射、ハチに浴びせる。それから巣を除去してビニール袋に入れて封をした。
アシナガバチにはかわいそうなことをした。ここに巣をかけたからといって、けっしてこのアシナガバチに非があるわけではない。しかし、人間の側とて、やはり困るのも事実だ。ダブルバインドというか、ちょっと複雑な気持ちである。ともあれ成仏してくれることを。