マラッカ海峡を見にゆく 1 ──国境を越えてJBへ

マラッカ海峡を見にゆくことにした。

MRTのブギス駅から徒歩5分、空き地にバスが数台ならんでいるのが見える。そこがクイーンズストリートのバスステーションだ。ここからマレーシアの入口ジョホールバル方面へゆくバスがでている。

ジョホールバルという地名は、ぼくたちの年代では、1997年にサッカー日本代表が初めてワールドカップ本戦への出場を決めた街の名として記憶されているだろう。なお現地ではJBと略記するようなので、本稿でも以降それにならうことにする。

170番の赤いバスがタウンバスで、国境を越えてJBまで運行しているという。停まっていたので近づいてゆくと、運転席のドライバーが手真似で、これじゃない、向こうのバスへ行け、といっている。タウンバスは各バス停に停まってゆく。ぼくはそれでもよかったのだが、旅行者は直行便に乗れ、ということらしい。

直行バスは数社が運行しているようだった。ぼくが行ったとき、つぎに発車を待っていたのは、黄色い車体のコーズウェイ・リンクだった。

チケット売場はビーチパラソルみたいなテントの下にあった。

売場のおじさんは、なぜかひどく不機嫌だった。JBまで一枚といったら、チケットなんか売らない、直接バスに乗れというようなことを言った。バスに乗ったら、やはりまず売場でチケットを買ってきてくれといわれた。再びおじさんのところにいくと、不機嫌そうにチケットをうってくれた。2.4ドル。イージーリンクカード(日本のSuicaみたいなプリペイドカード)で支払可能。

バスはほぼ満席。市内を抜け高速道路を北上し、30分ほどでウッドランドのイミグレーションへ着いた。要塞のようないかつい建物だった。写真を撮った。

しまった! シャッターを押した瞬間、気がついた。出入国管理エリアは撮影禁止だったのだ。

やばいとふりかえると、早くも警官がこちらに向かって歩いてきていた。観念するしかない。素直に謝った。警官は、ここで消せば許してやるという。ふたりでNEX7の液晶画面をのぞき込みながら、撮影した写真を消去した。警官は笑って、行っていいよといった。

シンガポールを出国したら、またバスに乗る。さっきのバスはすでに行ってしまっているが、同じコーズウェイ・リンクの黄色いバスなら、チケットを見せれば乗せてくれる。

コーズウェイという橋というか突堤のようなところを走ってジョホール水道を渡ると、もうJBだ。バスを降りて、こんどはマレーシアへの入国審査である。入国管理官がぼくのパスポートをみて「ハセガワ」と姓をよぶ。Yesと返事をするだけ。すぐに済んだ。

ここの両替所で5000円だけ両替。RM150ほどになった。ちなみにシンガポールではけっこうクレジットカードが通用したが、マレーシアは、街中では現金払いが基本だった。

イミグレーションはマレー鉄道のJBセントラル駅に直結していた。ガラスと鉄骨でつくられた、いかにも、な建物。シティスクエアと名づけられた真新しい駅ビルも同様だ。日本のそれとまったく同じように、テナントがたくさん入ったショッピングモールであった。写真は中心部にある巨大な吹き抜け。

ドラえもんにキティちゃんのコーナーもあった。

スタバにそっくりの地元資本とおもわれるカフェ。ラテ一杯がRM10以上した。けっして安いとはいえないが、若いひとたちがけっこうたくさんやってくる。

ところが、駅ビルから一歩外へでると、ごちゃごちゃした市街地が拡がっていた。行きかうひとたちも、一見してマレー系らしきひとたちが目につく。男性は丸い帽子をかぶり、女性は布で頭を覆っている。イスラム圏なのだ。シンガポールは、ぼくにとっては東京と連続しているように感じられる。マレーシアに来ると、その感覚はだいぶ変わってくる。

市内を少し歩く。丘の上に立派な建物がたっていた。市庁舎だという。変わった声でなく鳥がいた。

坂をくだるとヒンズー教の寺院があった。

まわりの店では、こんなふうな花飾りを売っている。

シティスクエアの南側を南下してゆくと、たくさんのお店がならんでいる。そのひとつに入ってビールを飲んだ。この話は、以前に現地からの投稿で書いたとおり。

カールスバーグの大瓶がRM16だった。RM1が30円くらいだとしても、それなりの値段である。とはいえアルコールには厳しいイスラム圏なので、多少のことは仕方ない。もっともこのあたりの一画にかぎれば、おじさんがビールを飲んでいる姿はしばしば目にする光景ではある。

ビルの谷間に、屋台がならぶ一画があった。

そのなかの一軒で、ごはんをたべることにした。

調理済みのおかずがいろいろならべられている。

お店のおばさんにお願いすると、まずお皿にごはんをよそい、手渡してくれる。その上に、じぶんの好みのおかずを好きなだけ載っける。それをおばさんに見せると、おばさんが皿をにらみ、値段を決めてくれる。価格体系はとくに明示されていない。おそらくおばさんの感覚が基準なのだろうとおもう。

ぼくのばあいは写真のような状態で、RM5。ビールの値段にくらべて1/3以下だった。あとはあいたテーブルについてたべればよい。なかなかおいしかった。

隣の屋台は飲み物屋さんだった。ひげをはやしたおじいさんが、どっから来たと訊く。東京から(ほんとは千葉だが)と答えると、ふーんという。飲み物はいらんか。ありがとう、いりません。ではおれを写真に撮れという。その一枚が、これ。

この日はシティスクエアのすぐ南にあるシトラスホテルに泊まった。部屋には窓がなかった。より正確にいえば、窓はいちおうある。その窓は、通気口のようなところに面しており、その光景を見るためにブラインドをあけようという気持ちにはけっしてなれないような代物だった。平面図をみると、そういう部屋が何室もあるようだった。

それ以外には、とくに不自由はなかった。

つづく