烈しい雨のなかの散歩

南から黒雲がやってくるのが見えた。もくもくと沸いてくるみたいに形を変えつづける。さっき一雨すぎたばかりだった。また来るのか、まだしばらくもってくれるのか。

以前は広い邸宅だったところが、外壁を残して取り壊されていた。建売住宅がたつ予定だとのこと。400坪以上ある広い土地を、30数坪の区画に細切れ細分化するようだ。人口も減るなどといっているのに、建売住宅式のビジネスはこんごも成り立つのだろうか。

ぼんやり突っ立って、そんなことなど考えていると、突然すさまじく雨が降りはじめた。

身動きできないほどの雨だった。しばらく傘をさしてそこに立っていた。雨はいっこうに止む気配がない。少し歩いて神社のところまで戻ることにした。

神社の敷地のはずれで雨宿りをする。銀杏の巨木の下だと、多少は雨をしのぐことができる。

銀杏の幹には雨が滝のように流れていた。

神社のはずれの階段も、川のようだった。音は完全に、川のそれだった。

神社のある高台から下ってゆく。歩道脇の側溝から轟音がひびいていた。

側溝の蓋の隙間をのぞく。濁流があふれんばかりである。いや、ぶくぶく泡をたてて、ほんとうにあふれかかっているところもあった。

雨が路面に落ちるとき、矢が突き刺さったような飛沫があがる。『七人の侍』の雨中の大決戦の撮影時に、黒澤明監督が墨汁をまぜて表現したというような飛沫である。

今夏日本各地を襲った豪雨のことをおもえば、こんな雨はまだ序の口だろう。それでも十分に烈しい雨だった。

じつはこの日は、最初は傘をもたずに散歩にでた。でてみたら、黒雲が天を覆いはじめていた。降られるかな、とおもうまもなく、雨粒が落ちてきた。見るまに、烈しい降りとなった。

大きな桜の木の下で雨宿りしていたら、近くの家からおばさんがでてきた。ビニール傘をさしだして、「もってって」という。「子どもたちがいたころはたくさん傘が必要だったけど、いまは二人だから」。

それで、ご厚意にあまえてお借りすることにした。雨のなか散歩をつづけることができたのは、おばさんの傘のおかげだった。