前回触れたマーヴィン・ゲイの What’s Going On は70年代に入ってからの曲だが、それよりも前、1960年代にも、公民権運動を背景にした曲は少なくない。
ザ・インプレッションズの People Get Ready (1965) もそのひとつ。好きな曲である。YouTubeにあげられている複数の音源のうち、著作権者が承諾しているらしいもの(?)のリンクを貼っておく。
カーティス・メイフィールドの書いたこの曲を、ぼくはリアルタイムで知ったわけではない。生まれる前の曲だから。けれど良い曲の常として、いろんなひとによってカバーされてきた。山下達郎氏はライブで「蒼氓」を演奏するとき、途中にこの曲を差し挟む(ライブアルバム『JOY』でも聴くことができる)。
音楽はメロディやハーモニーなどさまざまな要素が複合しているものだが、ここでは歌詞に注目しよう。People Get Ready の歌詞はシンプルだ。声高に異議申し立てをするあからさまなプロテスト・ソングではない。「列車」というイメージに託して自由への希求をうたいあげるゴスペル・ソングだ。列車のイメージは明確であるものの、あとは抽象度が高く、いまひとつ意味の輪郭がくっきりしない。
——最初にぼくがこの曲を知ったときにいだいたのは、そんな印象だった。40年近く前のことだ。音楽も英語も歴史も文化も、まだなにもよく知らなかった。
しかし、少し勉強すると、その印象は大きく変わる。シンプルながらも深みのある歌詞だとわかってくる。
ブラック・ミュージックは、いうまでもなく、北米大陸における黒人の歴史と不可分の関係にある。本稿では、こうした視点から、この曲の歌詞の意味を整理してみたい。書いているうちに長くなったので、数回にわけて掲載する。
その2へつづく。