「新しい生活様式」を読んで戦時国策スローガンを思い出した話

緊急事態が(予想どおり)延長されることになったが、そのさい併せて「新しい生活様式」なる摩訶不思議なお達しが発せられた。

「新しい生活様式」の奇怪さについて語りだすときりがないので、ここでは「日常生活の各場面別の生活様式」という項目で述べられる内容に絞る。そこには、食事のさいに向かい合わせはやめ横並びに着席せよ、おしゃべりは控えて料理に専念せよ、などと記されている。感染予防という大義名分があれば、個人の私的な領域における行動にまで指図する権利がある、というわけだ。まるで戦時国策スローガンみたいだ。

戦時中の国威発揚スローガンといえば、「撃ちてし止まん」とか「欲しがりません勝つまでは」などが有名だ(このうち前者については、しばらく前の会見で、都知事が口にしていた)。

里中哲彦『黙って働き笑って納税——戦時国策スローガン傑作100選』(現代書館、2013年)によれば、ほかにも大量のスローガンにつくられたという。たとえば——

「家庭は、小さな翼賛会」(松下電器、昭和15年)
「国策に、理屈は抜きだ、実践だ」(日本カレンダー、昭和16年)
「買溜に、行くな行かすな、隣組」(大阪時事新報社、昭和17年)

など。どれも「含蓄」に富む。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)への恐怖と不安が蔓延する今日の社会に不気味なくらい符合する。

戦時下広告のキャッチコピー。「電球」を「マスク」や「消毒液」に差し替えるだけで、たちまち今日でも通用しそうだ。『科学朝日』昭和20年1月1日号裏表紙広告(「モノは無くても広告はあるぞ」より引用 http://www2.ttcn.ne.jp/heikiseikatsu/seikatsu/matsuda.htm )

話が逸れてしまったが、政府によるこの「横並びの食事・団らん抜き」の推奨は、なかなか興味深かった。つづきは次回。

横並びの食事・団らん抜きの「家族」——「新しい生活様式」と憲法改正自民党草案
緊急事態延長にともなって政府が持ちだしてきた「新しい生活様式」。とりわけ「横並びの食事・団らん抜き」の推奨が興味深かった話のつづきである。政府の唱える「新しい生活様式」が想定する食事の場所が、飲食店なのか自宅なのかは不明で...
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