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今日の風景 Archive

北川貴好フロアランドスケープ展

入試業務の季節となった。そのあいまを縫って、北川貴好フロアランドスケープ展を見てきた。水や植物がモチーフ。その「水」が、「生命の水」的なものではなくて、生活排水であったりするのが、いい。

会場のアサヒアートスクエアにはスタッフに教え子がいる。しばし立ち話をした。

外へでると、よく晴れた隅田川沿いの風景がひろがっていた。観光客が吾妻橋の上から写真を撮っていた。

その光景は、さっきまでいた閉じられた展示空間の「ランドスケープ」と、ぼくの意識のなかでカットバックするみたいに感じられた。


空を見上げる

夕暮れ時の空。しばらく前に撮った。

空をながめるのが好きなのだが、街中にいるとどうしても視界は狭く、視線は下に向きがちだ。

ふとした拍子に空のことが意識に浮かぶ。顔をあげ、空を見上げる。

空はいつも、そこにある。


口頭試問の雪の朝

卒論・修論の口頭試問の季節である。その日の朝、首都圏はこの冬初めての積雪となった。

都心で4cmだったらしいが、うちのデッキの手すりを見ると、もう少し積もったのではないかという気もする。まあ、ここは都心じゃなくて市川なんだけど。

庭仕事用のスコップを手にして雪かきをした。クルマのタイヤが踏むあたりだけ、積もった雪がいったん融けて凍結していた。スコップで叩いても容易に割れないほどだった。

そこへ、一時間ほど前に学校へ行ったはずの《みの》がひょっこり戻ってきた。ずっとバスを待っていたが来ない、なんでも始発のバスがいまだ終点に着くことができないような状態らしい。もう今日は休むという。

大学へ行こうと表の道にでたら、大渋滞。ピクリとも動く気配さえない。さっき雪かきしている最中に横を通りすぎていった車が、まだいくらも進めずに並んでいた。

もとよりバスに乗る気もなく、そのまま歩いて駅へ向かった。

川沿いのマンションの駐車場で一台のポルシェが動きだした。ところが、駐車場の前の、ふだんなら傾斜していると気づくことさえないほどのわずかな斜面を登ることができない。後輪を空転させるばかりで、ずりずりと下がっていく。前進と後進をくりかえしているうちに、なんとか発進することができた。

それにしてもあのポルシェ、発進したはいいものの、あのあとどうしただろうと気になった。表通りに出れば大渋滞、傾斜の途中で停車を余儀なくされることもあったのではなかろうか。幹線の路上なら、かえって問題なかったのかもしれれないのだけど。

いつもと同じくらいの所用時間で駅に到着。駅前はバスを待つひとたちでごった返していた。電車はほぼ定刻で運行していた。


島牧でつららを見る

北海道の島牧に行ってきた。島牧で年越しするのは十数年ぶりだ。

往路は吹雪いたものの、大晦日の午後には風は収まり、気温もあがってきた。

俊輔くんに案内してもらい、北国潤につららを見に行った。

そこには廃道になった古い素掘りのトンネルがある。入口のところへ来ると、上から大きなつららが垂れ下がっていた。一週間でこのくらいに成長するのだという。思った以上に頑丈で、子どもたちがつぎつぎに雪玉を投げつけても、びくともしなかった。

トンネルを抜けて江ノ島側に出る。崖地一面に無数のつららが林立していた。

少し暖かだったせいか、つららの何本かが途中で崩落しており、古代ギリシア遺跡の廃墟みたいな光景だった。折れたつららは一抱え以上もある太さで、青白く光っていた。

その上を乗り越えて、子どもたちは崖の直下まで登っていった。鎗くらいのサイズのつららを見つけて折り、振りまわして遊んでいた。


雪降る

12月25日のクリスマス、市川に雪が降った。

午後3時くらいだっただろうか。ペンキ塗りをしていて気がつくと、空が黒雲で覆われていた。ほどなく雨粒が落ちてきた。と思う間もなく、雪になった。

雪といっても、むしろ霰というのに近いかもしれなかった。いくつかの結晶が途中で少し溶けてくっついたような格好をしていた。それがバタバタと舞い降りてくるのだった。

とても積もるというようすではなかった。じっさい、20分ほどで雪は雨に戻り、さらに20分ほどしたら、あがってしまった。

黒雲は西の空の下のあたりでくっきりと切れており、沈みかかった夕陽が空をオレンジ色に染めているのが見えた。


9カ月後の石巻を歩く 2/2

被災したクルマが集められていた。救急車もあった。それぞれの車体には、引きあげた日時がきちんと書き込まれている。震災当日から半年以上もたった日付が記入されている。こういう地味でつらい仕事を、誰かがこつこつとおこなってきたのだと、あらためて知らされる思いがした。

屋根がもげていたり、窓ガラスが割れていたりするものがある。黒焦げになっていたり、ぺしゃんこにつぶれていたりするものもある。いちばん端には、やはり被災したスバル360が一台、ぽつんと置かれていた。

遠くの工場の煙突から、白い煙だか水蒸気だかが猛然と吐きだされていた。

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9カ月後の石巻を歩く 1/2

SSDでのレクチャーの翌日、ひとりで石巻を歩いてきた。東北の、「被災地」とよばれる地域を訪れるのは初めてである。ボランティアや復興支援といった立派なことではまったくない。ただ歩き、ただ見てきた。それだけだ。

雪降る仙台から仙石線に乗った。

途中不通区間があるため、松島海岸駅から矢本駅までは代行バスに乗り換える。バスは仙石線ぞいの国道を走った。乗客は多くはない。大半は地元の方のように見受けられた。黙って雪の車窓に目をやっていた。電車は1時間に2本、バスは1時間に1本。その待ち時間も含めて、仙台から石巻まで2時間半かかけ、到着したのは正午前だった。

石巻も雪がちらついていた。

石巻駅前にピンク色の大きな建物が建っている。市役所である。元はデパートで、撤退後に市役所が入ったのだそうだ。駅前には、キャリーをひきずったスーツの一団(他の行政からの支援だろうか)や、デイパックを背負った一団(ボランティアだろうか)の姿があった。

アーケードのある商店街を歩く。何軒ものお店があって、それぞれお客さんが入って、まずまず賑わっていた。一方で、シャッターを閉じたり、コンパネでウインドーをふさいだ状態の店舗もあった。場所を変えて営業していますという貼り紙や、震災の影響で休業中ですという貼り紙も見かけた。励ましの寄せ書きが張りだされている店もあった。

アーケード街を右に折れて、飲み屋街を歩く。店舗はほとんどが閉まっていた。昼間だから、ある意味では当たり前であるかもしれない。空き店舗のうちいくつかは、支援団体が活動拠点にしているようだった。

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鉄塔文庫の夜

せんだいスクール・オブ・デザイン(SSD)は東北大学の片平キャンパスにあった。駅から徒歩10分。近い。青葉山の建築学科の建物が震災で大破し建て替えとなった。その間の仮設校舎なのだという。

レクチャーでは、「セルフサービス」をとりあげた。日常生活の自明性が、いかに当たり前ではないかということ、そしてそれをいかに異化しうるのかということについて話をした。

引きつづき編集会議にも参加させてもらった。このコースは『S-meme』という建築系の批評の雑誌をつくることが目標なのである。

メンバーは、建築の院生から仙台在住のクリエーターや行政のひとまで多彩。大学の内外をつなぎ、地域に根ざしたデザイン教育のプログラムを開発し実践するというのが、SSDのコンセプトらしい。

会議の詳細についてはここでは立ち入らないが、なんだかんだといって、熱く濃い話しあいが遅くまで続いたのには感心した。とくに大学外からの参加者は、仕事を終えてから来ているというのに、予定を大きく超過して2200まで一所懸命話しをしていた。

主宰している五十嵐太郎さんの批評誌への情熱と、参加者ひとりひとりの関心やモチベーションとが、がっぷりと組みあえば、とてもユニークなものができるのではなかろうか。陰ながら応援しております。

そのあと、五十嵐さんと担当のOさん、それにたまたま別件で来訪していた研究者Aさんと一緒に「鉄塔文庫」という名前のお店に行った。

壱弐参(いろは)横町という、戦後闇市的雰囲気を残す飲み屋街にある。8人も入れば店内はいっぱい。板張りで天井が低く、ヨットのキャビンみたいである。両の壁は天井まで本棚で、文芸系を中心に本がならべられている。五十嵐さんいわく、書店居酒屋(?)なのだそうだ。かれの新著『被災地を歩きながら考えたこと』も置いてあった。

おだやかな雰囲気の若いご主人は、頭にタオルを巻きつけていた。以前は東京で編集者をしておられたという。元編集者なら、ぼくと同じだ。

震災をきっかけに、故郷の仙台に戻って、このお店をひらいた。復興と今度の東北を考えるうえで、さまざまな立場のひとたちが集い、出会い、談義できる場所になればと考えたのだという。「これから仙台市民がこのお店をどう考えるか見守っていきたいとおもっています」と冗談めかして話しておられた。その言葉のつかい方が印象に残った。

ぼくはお酒は強くないので、基本的にビールばかり。あとの三人はといえば、ビールは最初の1杯だけで、あとは日本酒。ぐいぐい杯を重ねてゆく。

あれこれ愉しく話をしていたら、2時になってしまった。いかにも北国らしい鋭い冷気のなかを、駅前のホテルまで歩いて帰った。


ロードサイド的、郊外的

ロードサイドの風景の写真を撮ってきた。散歩がてらに近所をちょっと歩くと、こうした光景はいくらでも見つかる。というか、似たような風景は日本じゅうの「郊外」にあふれている。

はっきりいって、わざわざ写真を撮りたくなるような風景とは呼びにくい。それが、ふつうの感覚だろう。そのせいなのか、撮影をしていると、道行くひとや自動車で通りすぎるひとたちから「こんなところで何してんだ? このオッサン」的な視線をばしばしと浴びせられる。もうたいがい慣れたのだが。

ロードサイド的というか、郊外的なものについては、20世紀後葉ではもっぱら批判の対象であった。逆に近年では、ここにこそ可能性があると称揚されることが多い。

『アトラクションの日常』で論じたように、ぼくもロードサイド的、郊外的なものの今日的な重要性にあらためて注意を払うべきだと考えている。

ただし、それは、それらを単純な批判や称揚の対象として、つまりそれ自体がもつ価値を直接問題にするというような次元での話ではない。批判は大切だが、それ自体が目的化すれば破滅的になるだけだ。逆に、ただ称揚するのであれば、それは批判の裏返しにすぎない。

ロードサイド的・郊外的なるもののが重要なのは、ひとえにそれが現にわたしたちに与えられた条件、「現実」であり「現在」であるからだ。それ以上でもそれ以下でもない。

そのような地点から出発するからこそ、建設的な展望を拓くことへつながりうるのだとおもう。


皆既月食

皆既月食を見たいと子どもたちが言いだし、いつもより遅くまで起きていることになった。

食が始まるまで、DVDで『田吾作ロイド一番鎗』(1927)を観て待った。

ときどきデッキに出て空を見上げる。寒いが、おかげでよく晴れて、月も星もきれいに見えた。

月は天上やや東寄りのところにあった。食は月の左下から始まり、みるみる欠けてゆく。皆既月食となるころには、月は、斑点をともなった赤黒い球体となった。醤油漬けのいくらみたいだった。

NEX-5Nで写真を撮った。望遠レンズも三脚もないので、まともな写真にはならなかったが、まあ、それでもいい。

月食がすすむと、まわりの星がいっそうよくわかるようになった。月の右下にオリオン座があり、三つ星だけでなく小三つ星も見えた。近くにシリウスがあった。月の右上には、おうし座のすばる(プレアデス)も見えた。カシオペア座は北の空の下のほうにあった。

子どもたちも空を見上げながら、おしゃべりしていた。《くんくん》がいった。

「みなさん、皆既月食の時間です。大事な、大事な皆既月食だから、ほんとに大事な皆既月食だから、みんなで空を見上げましょう」

言い終えると、ウケケと笑った。《みの》も《なな》も笑った。

元ネタは、かれらが大好きな映画のひとつ『南極料理人』である。

あんまり寒いので、その連想だったのだろうか。なんにせよ、夜中にちょっと近所迷惑ではあった。


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